その声がした時、あたしは魚をおろそうとまな板の上に古新聞紙を広げた所だった。

テレビを止め、全神経を左耳に集中させる。
声が近づくのを感じたあたしは、魚をおろすのをやめて窓に駆け寄ると、大きく手を振った。

窓越しにあいつがあたしに向かって目で合図をするのが見える。

あたしはせっせとあいつへの贈り物を運んだ。
それは会えなかった時間に比例してかなりの量になっていた。

はやる気持ちを抑えつつ、玄関先であいつを待つあたし。
あいつへの贈り物の並べ方を工夫しながら。

・・・・・でも、あいつは来なかった。
あたしに残されたのは、玄関先に積み上げられた半年分の古新聞。

エレベーターなしの4階に住むあたしが、あいつに振られたのはもう何度目の事だろう。

呆然と立ち尽くすあたしの耳に、
まいど〜おさわがせ〜いたして〜おります
の声が、何度か響いて消えていった。

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